最終更新日: 2025年09月19日
研削液とは

この記事の著者
氏名:名倉 惇史(なぐら あつし)
肩書:営業技術部 係長
業界経験:研削加工向け営業技術9年
得意分野:自動車・航空機部品・工具関連の加工への提案
外部発信:アペルザTV 登壇
研削液とは何か?基本の役割と重要性
研削液とは、研削加工において砥石とワーク(被削材)の間に供給される液体であり、加工精度や設備の安定稼働を支える極めて重要な要素です。
切削液と混同されやすいものの、研削液は特に「精密さ」や「トラブル抑制」の観点から、より高度な性能バランスが求められます。
適切な研削液の使用は、焼け・目詰まり・腐敗などのトラブルを未然に防ぎ、
安定した加工品質を実現するための鍵です。
- 摩擦熱の発生を抑え、寸法安定性を確保
- 仕上げ面の粗さや光沢を安定させる
- 砥石の性能を最大限に引き出し、寿命を延ばす
研削液は「加工の見えない支柱」ともいえる存在です。
研削液と切削液の違い
研削液と切削液は似て非なるものです。どちらも加工を支える潤滑冷却液ではありますが、その用途や作用のバランスが異なります。
比較項目 |
研削液 |
切削液 |
使用工程 |
仕上げ・微細加工 |
穴あけ・フライスなどの荒加工 |
主な作用 |
冷却・潤滑・洗浄・防錆 |
潤滑・防焼付き |
液性の傾向 |
水溶性が主流 |
油性・水溶性どちらも使用 |
研削液は、切削液よりも微細な制御と多機能性が求められる加工液です。
研削液の主な作用(冷却・潤滑・防錆・洗浄)
研削液は主に4つの作用をもって、加工を支えています。
それぞれの役割を正しく理解することが、選定・管理の第一歩です。
- 冷却性:加工時に発生する摩擦熱を除去し、ワークや砥石の熱変形・焼けを防ぐ。
- 潤滑性:砥石とワークの間の摩擦を軽減し、砥石の目詰まりや焼けを抑える。
- 洗浄性:砥粒・切りくずなどを洗い流し、加工面への再付着や傷の発生を防止。
- 防錆性:加工後のワークや設備のサビを防ぎ、製品・機械の寿命を延ばす。
この4作用は単独ではなく、研削液の組成によってバランスよく発揮される必要があります。
加工環境や材質に応じて、どの作用を優先すべきかを見極めることが重要です。
研削液が加工品質に与える影響
研削液の選定と管理次第で、加工品質には大きな差が生まれます。
具体的には以下のような点が挙げられます。
- 冷却性が足りない → 焼けや熱変形が発生し、寸法精度が不安定に
- 潤滑性が不足 → 摩擦によって砥石が早期に摩耗し、面粗さが悪化
- 洗浄性が低い → 切りくずが再付着し、加工面にキズが入る
例えば、ニートレックスでは、
鋼材の研削時に発生していた焼けの課題に対して、
潤滑性の高い研削液を選定・提案することで、砥石とワーク間の摩擦熱を抑制し、焼けの発生を大幅に改善しました。
焼けの原因がわからず、研削条件を変えても効果が出ない…
研削液は単なる冷却水ではなく、加工トラブルの根本を解決できる“加工戦略の一部”です。
研削液選定は、単なる消耗品選びではなく「品質をつくる設計」として向き合うべきです。
研削液の種類とその特徴
水溶性研削液と不水溶性研削液の違い
研削液は、その性質に応じて大きく「水溶性」と「不水溶性(油性)」の2種類に分類されます。
それぞれの特性を理解することで、加工の品質や安全性に大きな差が生まれます。
- 水溶性研削油剤(液):水で希釈して使用。冷却性・洗浄性・防錆性に優れ、比較的環境負荷も低い。
- 油性研削油剤(液):原液のまま使用。潤滑性に非常に優れるが、オイルミストや引火のリスクがあるため、設備要件が厳しくなる。
加工内容・素材・設備環境に合わせた選定が、最適な研削性能のカギとなります。
研削液の基本分類を理解し、自社の加工条件に合ったものを選定しましょう。
研削液の分類と性質
水溶性研削油剤(液)は、以下の3つのタイプに分類されます。
- A1種(エマルションタイプ):希釈すると白濁。潤滑性が高く、非鉄金属(アルミ・SUSなど)の加工に最適。摩擦熱を抑え、溶着の防止に効果的。
- A2種(ソリュブルタイプ):希釈すると透明または半透明。冷却性・洗浄性・防錆性に優れ、精密な加工に適する。
- A3種(ソリューションタイプ):希釈しても透明で油分を含まない。洗浄性・冷却性に優れ、高能率研削や鋳鉄・銅合金などの加工に対応。
油性研削油剤(液)は、原液のまま使用するタイプで、以下のような特徴があります。
- 油性研削油剤(液):潤滑性に優れ、研削焼けや摩耗を抑える。
オイルミストの発生や引火の危険性があるため、フルカバーの工作機械が必須。
歯車研削、工具研削、ネジ研削などの高精度加工で使用される。
タイプごとの特性とワーク材質・加工方法との相性を見極めることが選定のポイントです。
ニートレックスでは、加工の現場に即した最適な分類選定をご提案しています。
用途・素材別のおすすめ研削液
素材や加工目的ごとに、適した研削液タイプは異なります。以下の表は、おすすめされる研削液の傾向をまとめたものです。
素材・加工対象 |
推奨タイプ |
主な特性 |
非鉄金属(アルミ・SUS) |
A1種(エマルション) |
潤滑性高く、溶着防止に最適 |
精密加工(工具など) |
A2種(ソリュブル) |
冷却性・洗浄性・防錆性バランス型 |
高能率研削(鋳鉄・銅など) |
A3種(ソリューション) |
冷却性・洗浄性に優れる |
歯車・工具・ネジ研削 |
油性研削油剤 |
潤滑性重視・高精度対応 |
うちの加工に一番合う研削液を選びたいけど、どれにすべき?
研削液は単なる“冷却剤”ではありません。目的に応じた正しい選定が、製品精度と生産性を高めます。
ニートレックスでは、研削砥石との組み合わせも考慮した総合的な提案が可能です。
研削液の選定ポイントと注意点
砥石・設備に合った研削液の見極め方
研削液を選ぶ際に特に重要なのは、
加工するワークの材質と
加工方法です。
どのような素材を、どのような方式で加工するかによって、研削液に求められる性能(冷却性・潤滑性・防錆性・洗浄性)は異なります。
加工対象 |
推奨研削液 |
理由・特徴 |
鋼材・焼入れ材 |
A2種(ソリュブルタイプ) |
冷却性と潤滑性のバランスが良好 |
非鉄金属(アルミ、SUSなど) |
A1種(エマルションタイプ) |
高潤滑性で溶着を防止 |
歯車・ネジ・工具研削 |
油性研削油剤(液) |
高精度加工に適し、潤滑性に優れる |
さらに、使用している研削盤の設備構造も重要です。
オープンタイプの設備では、オイルミストや引火のリスクがあるため水溶性の使用が推奨され、
フルカバータイプの設備であれば油性研削油剤(液)の選択も可能です。
研削液の選定は、ワーク材質・加工方法・設備構造の三要素を基準にすることが重要です。
ニートレックスでは、現場の条件に合わせて最適な研削液をご提案いたします。
研削液選定ミスの例とその回避策
研削液の選定ミスは、加工品質の低下や設備トラブルにつながります。
以下は現場でよくある選定ミスと、その回避方法を示した事例です。
選定ミス |
主な問題 |
回避策 |
油性をオープン設備で使用 |
ミスト・臭気・火災リスク |
フルカバー設備に限定 |
A3タイプで潤滑性不足 |
研削焼け・仕上がり不良 |
A1または油性タイプに変更 |
素材と液の相性不一致 |
錆び・変色・腐敗 |
ワーク材質に応じた選定 |
選定ミスを避けるには、加工対象と求められる性能に合った液種を選ぶことが第一です。
目的別に最適な研削液を選ぶコツ
目的や課題に応じて最適な研削液を選定するには、それぞれの性能を理解し、優先順位をつけることが必要です。
- 冷却性重視:加工熱を除去し寸法安定性を保ちたい → A3種・A2種
- 潤滑性重視:焼け・摩耗の防止 → A1種・油性研削油剤(液)
- 洗浄性・防錆性重視:切粉除去や錆の予防 → A2種・A3種
目的が明確になることで、選定すべき研削液の種類が絞り込まれ、効率的な加工環境を構築できます。
ニートレックスでは、ワーク材質・加工法・設備条件から最適な研削液をご提案しています。
研削液の管理・希釈・継ぎ足し方法
研削液の希釈倍率と正しい作り方
研削液の性能を最大限に引き出すためには、製品ごとの指定希釈倍率を守って使用することが重要です。一般的には以下のような目安が存在します。
研削液タイプ |
目安希釈倍率 |
特性 |
A1種(エマルション) |
10〜20倍 |
潤滑性重視 |
A2種(ソリュブル) |
20〜80倍 |
バランス型 |
A3種(ソリューション) |
80〜150倍 |
洗浄・冷却性重視 |
希釈時は、
水に原液を注ぐのが基本です。逆の手順では乳化不良が起こる可能性があるため、順序を守ってください。
原液と水、どっちを先に入れてる? 逆だと性能落ちるかも!
適切な希釈が研削液の性能を安定させ、加工精度や工具寿命にも好影響を与えます。
研削液を継ぎ足すタイミングと手順
研削液は使用中に
水分が蒸発しやすく、これにより
濃度が上昇することがあります。単純に「薄まったから補う」という考え方は誤りです。
- 水分の蒸発により、濃度が濃くなるケースが多い
- 揮発性成分の偏りが起きるため、性状が変化する
- 補充は、希釈済み液または原液を用い、必ず濃度を測定・再調整する
補充のたびに必ず濃度を確認し、変化に応じて調整することがトラブルを防ぐ鍵です。
研削液の濃度測定と管理方法
濃度管理は研削液の性能を維持する上で非常に重要ですが、
揮発しない成分や不純物の蓄積により、数値だけでは判断できない劣化も発生します。
- 濃度測定には、リフラクトメーター(屈折計)を使用
- 週1回以上の定期的測定が望ましく、加工頻度が高い現場では毎日が理想
- 臭気・泡立ち・変色・粘性の変化など、外観の異常にも注意
濃度管理だけでなく、液の状態や使用環境全体を把握しながら管理を行うことが重要です。
濃度が適正でも性能は劣化していきます。定期交換の習慣化が、安定加工の第一歩です。
研削液に関するトラブルと対策
泡立ちや腐敗の原因と対応策
研削液を使用する現場では、泡立ちや腐敗といったトラブルがしばしば発生します。これらは作業効率を低下させ、製品品質にも悪影響を及ぼすため、早期の対処が求められます。
- 泡立ちの原因:ポンプの攪拌過多、濃度過多、機械構造の影響
- 腐敗の原因:タンクや配管内の汚れ、長期間の液使用、不十分な清掃
泡立ちが続くと液面からの液供給が不安定になり、加工精度にも影響します。腐敗は悪臭だけでなくバクテリアの増殖を招き、
人体や設備にも悪影響を与えます。
泡立ちが加工不良の原因に!?気づかないうちに進行しています。
泡立ちにはポンプの流速調整や適正濃度の維持、腐敗には定期的なタンク洗浄と液交換が有効です。
砥石焼けや目詰まりの予防法
研削中に発生する
砥石焼けや
目詰まりは、製品の表面品質を著しく損ねる原因となります。これらを防ぐには、研削液の適切な選定と管理が不可欠です。
- 焼けの原因:冷却性の不足、砥石の条件不適合、濃度の過多・不足
- 目詰まりの原因:研削くずの排出不良、洗浄性の低下、流量不足
冷却性に優れた研削液を選び、濃度・流量を適切に保つことで、砥石焼けを防げます。
また、洗浄性が高い研削液は、砥石表面に付着した微細な研削くずを除去し、目詰まりを防止します。
潤滑性と冷却性のバランスがとれた液選定と、適正な供給量の維持が重要です。
研削液の交換タイミングと延命の工夫
研削液の性能は時間とともに劣化し、交換のタイミングを見誤ると加工不良や設備トラブルにつながります。
また、延命の工夫を施すことでランニングコストの抑制も可能です。
- 交換の目安:臭気の発生、泡立ち、濃度が適正でも性能低下が見られる場合
- 延命の工夫:スラッジ除去フィルターの設置、定期的な補充と濃度管理
- 清掃と保守:タンク・配管の定期洗浄により腐敗・異物混入を防止
研削液の劣化は濃度だけでは判断できません。外観・臭気・性能の変化に注視し、適切なタイミングで交換しましょう。
日々の管理と定期的な清掃で、トラブルの発生リスクを大幅に減らせます。
研削液に関するよくある質問
研削液の選び方で迷ったら?
研削液を選定する際は、まず「何を加工するのか」「どのような加工を行うのか」という加工条件を明確にすることが第一歩です。
特に以下の3点に注目すると、適切な選定がしやすくなります。
確認ポイント |
例 |
推奨されるタイプ |
ワーク材質 |
鋼材、アルミ、SUS |
A1〜A3種、水溶性/油性 |
加工内容 |
歯車研削、平面研削など |
潤滑性や冷却性に優れるもの |
加工精度の要求 |
高精度が必要か否か |
油性 or ソリューション型 |
研削液は“加工に合わせた専用品”という意識が選定成功の鍵です。
研削液を長持ちさせるには?
研削液の寿命を延ばすには、「濃度」「異物」「菌」の3点に注意することが重要です。
- 適切な濃度を保つ(希釈倍率を遵守)
- タンク内のスラッジや切粉を定期的に除去
- バクテリアの繁殖を防ぐため、タンクを清潔に保つ
「測る」「捨てる」「洗う」を習慣化することで、研削液の延命が実現できます。
小まめな管理が液の性能維持とコスト削減につながります。
研削液の保管で注意すべき点は?
研削液は、原液・希釈液いずれも
適切な保管が求められます。不適切な環境では、成分分離や変質が進み、使用不能になる可能性もあります。
- 直射日光・高温・低温を避ける
- 密閉状態で保管し、空気と極力接触させない
- 原液は凍結に注意し、室温保管が基本
保管環境の乱れは液の品質劣化を招き、結果的に加工トラブルへと発展します。
保管ルールを守ることで、研削液の安定供給と性能維持が可能になります。
まとめ|研削液の選定と管理が加工精度を左右する
研削液の基本を理解し現場トラブルを防ごう
研削液は、冷却・潤滑・洗浄・防錆といった多くの作用を兼ね備えた、加工現場に欠かせない存在です。
その役割を正しく理解し、管理方法を誤らなければ、設備トラブルや製品不良の発生を大きく抑えることができます。
「なぜ焼けるのか?」「なぜ泡立つのか?」──その答えは研削液にあります。
日々の点検・管理と適切な知識があれば、多くのトラブルは未然に防ぐことが可能です。
トラブルの原因を液から見直す意識が、現場力を一段上に引き上げます。
製品品質を高めるために、最適な研削液を選ぼう
研削液の選定は、加工精度や工具寿命に直結します。
ワーク材質・加工方法・設備条件に応じて適切な種類・希釈倍率を選ぶことで、理想的な加工面を得ることができます。
- 潤滑性に優れた液は焼けを防ぎ、仕上げ面を美しく保ちます
- 冷却性に優れる液は寸法精度を安定させ、熱変形を防ぎます
- 洗浄性と防錆性を兼ね備える液は、設備寿命の延命にも貢献します
適切な研削液を使うことは、品質・コスト・信頼性すべての向上につながります。