最終更新日: 2025年09月24日
研削砥石の基礎と種類一覧

この記事の著者
氏名:名倉 惇史(なぐら あつし)
肩書:営業技術部 係長
業界経験:研削加工向け営業技術9年
得意分野:自動車・航空機部品・工具関連の加工への提案
外部発信:アペルザTV 登壇
この記事の読み方ガイド
このページでは「研削砥石の種類」について、基本から応用まで幅広く解説しています。
ただ、「すぐに答えを知りたい方」もいれば、「基礎からじっくり学びたい方」もいるはずです。
そこで、皆様の目的に合わせておすすめの読み進め方をご用意しました。
気になるところからお気軽に読み始めてみてくださいね。
研削砥石は、鉄鋼や非鉄金属を高精度に仕上げる
最終仕上げ工具です。
砥石は「砥粒・結合剤・気孔」の 3 要素で構成され、切れ味・耐摩耗性・冷却性を左右します。
結合剤は
ビトリファイド(セラミック)・レジノイド(樹脂)の 2 系統が主流です。
「切れ味が落ちてワークが焼ける…」— 砥粒・結合度・気孔バランスの見直しで発熱を抑えられます!
研削砥石の三要素(砥粒・結合・気孔)
- 砥粒:切れ刃。アルミナ系・炭化ケイ素系が代表。
- 結合剤:砥粒を保持。ビトリファイド(セラミック)とレジノイド(樹脂)が主。
- 気孔:切りくず排出と冷却液保持。気孔率が高いほど焼けを抑制。
研削砥石種類早見表
砥粒系 |
適合ワーク |
主なメリット |
アルミナ系 |
炭素鋼・合金鋼 |
汎用性◎ コスト◎ |
炭化ケイ素系 |
非鉄金属・鋳鉄・非金属 |
熱抑制◎ 切れ味◎ |
研削砥石種類別の特徴と用途
アルミナ系砥石の特徴
アルミナ系は、研削砥石の中でもっとも広く利用される砥粒です。靭性や硬度のバランスが良く、鋼材加工における標準的な選択肢となります。種類ごとの特性を理解し、加工目的に応じて最適な砥石を選定することが重要です。
砥粒種別 |
特徴 |
代表的な用途 |
得意な加工 |
苦手な加工 |
A(褐色アルミナ質) |
硬く靭性が高い。
汎用性が広くコストも安定。 |
炭素鋼・合金鋼の一般研削 |
生材の加工、荒取り |
高硬度材の加工 |
WA(白色アルミナ質) |
硬くて脆い。
切れ味に優れ、発熱を抑えやすい。 |
焼入鋼や工具鋼の仕上げ研削 |
精密仕上げ、焼入鋼の加工 |
長時間の連続加工 |
SA(解砕型アルミナ質) |
単結晶で靭性が高く割れにくい。自生作用により長寿命。 |
耐摩耗鋼、難削材の研削 |
高精度仕上げ、長時間研削 |
目詰まりの多いねばいワーク |
PW(高純度アルミナ質) |
純度が高く不純物が少ない。
焼けを抑えやすい。 |
工具鋼・特殊鋼の精密研削 |
精密仕上げ、焼け防止を重視する加工 |
目詰まりの多いねばいワーク |
セラミック砥粒 |
微細な結晶構造を持ち、破砕で常に新しい切れ刃が出る。
高機能砥粒。 |
難削材・発電機部品・精密部品 |
高能率研削、精密仕上げ、長寿命加工 |
生材、低負荷での加工 |
特にセラミック砥粒については加工負荷が一定程度ないと微小に破砕せず、
高靭性により目詰まり・目つぶれの要因となります。
炭化ケイ素系砥石の特徴
炭化ケイ素系は、アルミナ系に比べ
硬度が高く脆い特性を持ちます。
熱伝導性に優れ、発熱を抑えやすいのが強みです。
特に鋳鉄や非鉄金属、ゴムや樹脂などの粘性材に適しており、アルミナ系では難しいワークに有効です。
一方で、一般鋼材に対してはコスト面で不利になるケースがあります。
砥粒種別 |
特徴 |
代表的な用途 |
得意な加工 |
苦手な加工 |
C(黒色炭化ケイ素) |
硬度が高く脆い。
熱伝導性に優れ、発熱を抑えやすい。 |
鋳鉄、非鉄金属、ゴム、樹脂 |
軟質材(ゴム・樹脂)、鋳鉄の加工 |
一般鋼材の加工(コスト面で不利) |
GC(緑色炭化ケイ素) |
純度が高く硬度が最大級。
切れ味鋭く、超硬や非鉄金属に有効。 |
超硬合金、非鉄金属 |
超硬合金の精密研削、非鉄金属の加工 |
形状維持性を求める加工 |
形状別砥石(平形・カップ形ほか)
- 平形:外径・平面研削の定番。
- カップ形:工具研削・内面取りに有利。
- セグメント:大型定盤の高能率研削。
フレキシブル・オフセット・切断砥石
- フレキシブル砥石:曲面や溶接ビードのバリ取りに追従。
- オフセット砥石:外周+側面を使用でき隅肉研削が容易。
- 薄刃切断砥石:発熱を抑え母材変形を最小化。
研削砥石種類の選定ポイント
加工材質別おすすめ種類
ワーク材質 |
推奨砥石 |
理由 |
炭素鋼・合金鋼 |
アルミナ系 |
汎用性・コスト |
樹脂・非鉄金属 |
炭化ケイ素系 |
目詰まり抑制・熱割れ防止 |
粒度・硬度の選び方
- #36〜#60:粗取り ・#80〜#120:中仕上げ ・#150 以上:仕上げ
- 焼け → 結合度軟らかめ/形状ダレ → 結合度硬め。
表示記号・周速度早見表
周速度(m/s) |
φ150 mm 回転数 |
φ355 mm 回転数 |
20 |
2,550 |
1,080 |
30 |
3,820 |
1,620 |
加工方法・機械別最適研削砥石
平面研削に適した砥石
平面研削は、ワーク全体の平坦度や面粗さを安定させるために、砥石の幅や粒度の選定が重要です。
砥石幅が広すぎると研削抵抗が大きくなり、狭すぎると摩耗が早くなるため、加工目的に合わせて適切な幅を選ぶ必要があります。
- 加工のポイント・注意点
- テーブル速度とクロスフィード量のバランスをとることで、加工能率と仕上げ面の両立が可能。
- ワーク固定の精度が低いと、加工面に周期的な模様(チャターマーク)が出やすい。
- 研削液は研削点に向けて吐出し、冷却と切りくず排出を確実に行う。
円筒・内面研削に適した砥石
円筒研削ではワーク外径に沿って加工するため、砥石の形状保持性と粒度の安定性が重視されます。内面研削は砥石径が小さく、振れや弾性の影響を受けやすいため、砥石選定とドレッシング条件が仕上がりに直結します。
- 加工のポイント・注意点
- 円筒プランジ研削では、工作物周速度を砥石周速度の1/100程度に設定する。
- 円筒トラバース研削では、工作物周速度を砥石周速度の1/200程度に設定する。
- 内面研削では、ワーク内径の約80%の砥石径を目安にすると安定した加工がしやすい。
- ワーク固定剛性が不足すると真円度不良につながるため、治具設計も重要。
自由研削・切断に適した砥石
自由研削や切断は、ディスクグラインダーやハンドグラインダー、卓上グラインダーで行われる作業です。
砥石の選定だけでなく、正しい使用方法を守ることが仕上がりと安全性に直結します。
- 加工のポイント・注意点
- 砥石は必ず指定された使用面(平形砥石であれば外周面のみ)で使用する。
- 押し付け圧力を強くしすぎると摩耗が早まり、焼けや欠けが発生しやすい。
- 使用前には振れ(偏心)チェックを行い、無負荷で1〜3分間空転運転して異常の有無を確認する。
使用機械と砥石選定の関係(自由研削)
機械 |
主な用途 |
適した砥石の例 |
取り付け・安全の要点 |
ディスクグラインダー(アングル) |
溶接ビード除去/スケール取り/切断 |
レジノイド系 ・オフセット砥石(A/C) ・フレキシブル砥石 ・薄刃切断砥石 |
・ガード装着必須、側面使用の可否表示を確認
・機械の回転数(min-1)を外径から周速度に換算し、砥石の最高使用周速度以下で使用
・フランジ径・当たり面の清掃とバランス取り
|
ハンドグラインダー(ストレート/ペン型) |
小径部の研削/面取り/バリ取り |
軸付砥石(シャンク付) ・ビトリファイド(A/WA、C/GC) ・小径レジノイド砥石 |
・コレット径とシャンク径を一致させ偏心低減
・高回転ゆえ過回転に注意、最高使用周速度以下を厳守
・使用前に振れ(偏心)チェック
|
卓上グラインダー |
工具研磨/角取り/刃物の成形 |
ビトリファイド平形砥石(A/WA、C) 粒度 #36〜#120 |
・フランジで均一に締結しバランス取り
・工具台との隙間を小さく保ち、無負荷で3分間以上空転して異音・振動を確認
・回転数と外径から換算し、最高使用周速度以下で運用
|
- 同じ砥石でも機械の剛性・回転域・作業姿勢で最適条件は変わるため、試運転後にドレッシング条件・周速度・送りを微調整。
- いずれの機械でも、取り付け前に打音検査と外観検査、取り付け後に無負荷で3分間以上空転して安全を確認。
研削砥石のコスト最適化と安全
砥石コストは「購入価格」よりも
寿命・交換頻度・ライン停止時間で大きく変わります。
ここでは寿命を最大化しつつ、作業者の安全も守るための要点をまとめます。
「砥石代は安いのに総コストが高い…」— 寿命と停止時間を見直せば削減余地はまだあります!
砥石寿命を延ばすドレッシング
- ドレッシングは「切れ味の回復」、ツルーイングは「形状修正」を目的とするメンテナンス。
- 一般砥石(アルミナ・炭化ケイ素)はダイヤモンドドレッサでツルーイング+ドレスが基本。
- 切れ味が鈍ったらWA ドレッシングスティックで目立てを行い、温度上昇を防ぐ。
- ドレスのタイミングは火花の色や加工音の変化で判断。
・白っぽい火花:切れ味低下 ・甲高い音:負荷増大
周速度管理と安全チェック
- 周速度は加工効率と安全のトレードオフ。
高すぎると破損リスク、低すぎるとサイクルタイムが増加。
- 最高使用周速度は表示記号の末尾に「33 m/s」などと表示。
機械設定は必ずこの値以下にする。
- 砥石取り付け前にバランスを取り、別途ダイヤルゲージで振れ(偏心)をチェックしてから機械にセット。
- 取り付け後はガードを確実に閉じた状態で無負荷3分間回転し、異音・振動を点検。
保管と交換タイミング
管理項目 |
推奨条件 |
注意点 |
保管環境 |
直射日光を避け、乾燥した場所 |
高湿度での保管は避ける |
積み上げ高さ |
1 m 以下 |
過積載はひずみ・割れの原因 |
交換目安 |
ラベルから出ている部分の 1/3 |
外径低下で周速度が落ちる |
- 保管はころがすな・落とすな・ぶつけるなの 3 原則を徹底。
- レジノイド砥石は水分による吸湿劣化に注意し、防湿包装を維持する。
- 保管期間は各メーカーの保証期間を遵守し、先入先出しを徹底。
- 交換時は外観検査と打音検査でクラックの有無を確認。
よくある質問|研削砥石種類
粒度と仕上がり粗さの関係は?
- #36〜#60:粗取り(Ra 1.6 µm 以上)
- #80〜#120:中仕上げ(Ra 0.4〜0.8 µm)
- #150 以上:仕上げ(Ra 0.2 µm 付近)
ISO9001認証を取得した砥石を選ぶメリットは?
- ロットごとの品質変動が小さく安定供給。
- 不具合時の原因解析・再発防止体制が整備。
最高使用周速度とは何か?
- 砥石が安全に回転できる上限速度(m/s)。
- 表示記号末尾に「33 m/s」などと記載。
- 機械設定は最高使用周速度以下で運用する。
まとめ|研削砥石種類選定の要点
種類別メリット早見表
砥粒系 |
適合ワーク |
長所 |
注意点 |
アルミナ |
炭素鋼・合金鋼 |
汎用性◎ コスト◎ |
高負荷で目詰まり |
炭化ケイ素 |
非鉄金属・鋳鉄 |
熱割れ抑制 切れ味◎ |
衝撃に弱い |
選定フロー再確認
- STEP 1:ワーク材質を確認
─ 鋼 ⇒ アルミナ | 樹脂・非鉄金属 ⇒ 炭化ケイ素。
- STEP 2:精度要求で粒度を決定
─ #36〜60:粗取り #80〜120:中仕上げ #150 以上:仕上げ。
- STEP 3:トラブル別に結合度を調整
─ 焼け → 結合度軟らかめ
─ 形状ダレ → 結合度硬め
─ びびり → 弾性のあるレジノイドボンド
- STEP 4:周速度と機械能力を照合
─ 表示記号末尾の最高使用周速度以下で機械を設定。
- STEP 5:ドレッシング/ツルーイング手順を計画
─ ダイヤモンドドレッサでツルーイング+ドレスが基本。